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千葉地方裁判所 昭和45年(行ウ)7号 判決 1974年6月19日

原告 東風進 外一名

被告 松戸市馬橋第一土地区画整理組合

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

「被告が昭和四五年一月一九日原告両名所有の別紙物件目録記載の土地につきなした仮換地の指定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

一、本案前の申立

「原告らの訴をいずれも却下する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

二、本案についての申立

「主文同旨」の判決。

第二、当事者の主張

(原告ら)

一、請求原因

1 原告両名は別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)の所有者であるが、被告は昭和四五年一月一九日土地区画整理法九八条四項の規定に基き、原告ら所有の土地について別紙物件目録記載を内容とする仮換地の指定(以下事件仮換地指定という。)をなし翌一月二〇日原告両名に対しその通知をなした。

2 原告らは右指定に異議があつたので昭和四五年二月四日被告に対し異議の申立をなしその取消を求めたところ、昭和四五年三月一六日付書面を以つて右異議は認めないとの裁決があり、同月一八日原告らに送達された。

3 被告がなした本件仮換地指定は次のとおり被告の裁量権の範囲を越え、又その濫用であり著しく不公正であるからその取消しを求める。

(一) 別紙物件目録(1)、(2)の土地は広大な面積の一団を形成しており区画整理事業施行地区中、その位置、地積、地目、形状、土質、利用価値、環境等に関する諸条件が最高値を示していたのであるが仮換地によると地形が三箇所に寸断されて著しくその効用を減少し価値が半減されている。従つて現況の形態を考えて一街区内に換地すべきであつた。

(二) 別紙物件目録(7)の土地は仮換地前は右(1)、(2)に隣接している土地であるから仮換地は同じ街区内に加入されて一筆とすべきであつた。

(三) 物件目録(4)及び(5)の土地は仮換地前は隣接地で一団となつていたものであるのに、仮換地は地形を二筆に分断しその価値を半減させている。従前の地形、状況を勘案して一筆の正方形の土地に仮換地すべきであつた。

(四) 別紙物件目録(3)の土地は仮換地前は正方形を形成しその利用状況は極めて効率的であつたのに、仮換地によると南側角地に松戸市馬橋字上之台二七二七番が入り込みL字型地で北側面に不整形をなしており、更に他の街地に飛換地をしたことは現況の地形、利用価値を極度に減少せしめている。従つてこれは正方形に仮換地すべきであつた。

(五) 現在の土地面積と仮換地の面積との減歩率は平均二六%であるのに原告らの土地の減歩率は二八%以上であつて著しく不公正である。

4 よつて原告らは被告に対し本件仮換地指定処分の取消を求める。

二、本案前の抗弁に対する主張

1 原告らは昭和四五年一月二〇日被告から本件仮換地指定の通知を受けたが、その通知書には、仮換地指定についての意見、異議等がある場合には同年一月二七日から二月七日迄の間に報告組合事務所に申出るように記載されていた。そこで原告らは右指定期間内である同年二月四日に異議申立書と題する意見書を被告に提出したところ、同年三月一八日被告より異議は認められない旨の回答があつた。従つて原告らが本件仮換地指定処分が確定的にあつたことを知つた日は右昭和四五年三月一八日であり、右より起算して三箇月以内の昭和四五年六月一六日本訴を提起したものであるから、本件訴は出訴期間を徒過してなされたものではなく、適法である。

2 土地区画整理法一二七条の二によれば被告の処分に不服のある者は都道府県知事に対し行政不服審査法による審査請求ができるだけであつて処分庁である被告に対して異議申立をすることはできないにもかかわらず、被告は昭和四五年一月一九日の本件仮換地指定処分の通知書において、異議があれば同年一月二七日から二月七日迄の期間内に被告組合事務所まで申出るようにと原告らに対し誤つた教示をなし、原告らは右誤つた教示に基いて昭和四五年二月四日被告組合に対し異議申立書を提出した。このような場合被告としては行政不服審査法一八条三項に基いて速かに右異議申立書を審査庁である千葉県知事に送付し、且つその旨を異議申立人である原告らに通知すべきであつた。(右申立書が千葉県知事に送付された時同法一八条四項により初めから千葉県知事に対し審査請求がされたものと看做される。)

従つて、被告が原告らの提出した右異議申立書を直ちに千葉県知事に送付することによつて原告らは昭和四五年二月四日千葉県知事に対して審査請求をなしたこととなり、同日より三箇月を経過しても原告らの審査請求に対し裁決がない場合に該当するので行政事件訴訟法八条に該当し本訴は適法である。

3 仮りに原告らが被告に対してなした異議申立書を被告が千葉県知事に送付せず審査請求がなされたものと看做されないとしても、被告が行政不服審査法一八条三項の送付手続を怠つたのであるから、右は行政事件訴訟法八条二項三号の「裁決を経ないことにつき正当な理由があるときに該当するから原告の本訴は適法である。

(被告)

一、本案前の抗弁及び主張

1 原告らが本件仮換地指定処分を知つた昭和四五年一月二〇日から三ケ月を経過した同年四月二〇日に本件仮換地指定処分の取消訴訟の出訴期間は満了したものであり、其の後に提起された本件訴訟は不適法である。

2(一) 被告が原告らになした通知書には「この通知に不服ある場合には本書受領の翌日から六〇日以内に県知事に対して審査請求することが出来る」旨、期間と審査庁を明示して教示しているので、被告は原告らに対し不服申立に関し誤つた教示はしていない。

(二) 被告が原告らに対してなした通知書に同封の書信中に「御意見、御異議等がございましたら次によりお申出下されたく……」との記載のあることは認めるが、其の趣旨は組合員の不服や、不審な点につき、明瞭な誤記、誤算を訂正する他説明して納得を得んとするものであつて行政不服審査法上の異議申立の教示でない。そのことは通知書自体には(一)項記載のとおり六〇日以内に県知事に対して審査請求ができる旨教示するのみで処分庁たる被告自体への異議申立には全く触れていないことから明らかであり、しかも原告東風進は被告の理事であつてこの間の事情を知悉していた。従つて被告は原告らから異議申立があつたが、行政不服審査法上の異議申立を誤つて教示したと考えていなかつたので県知事に送付手続をとらなかつたものである。

(三) 従つて原告らの本件訴は出訴期間を徒過してなされた不適法なものである。

二、請求原因に対する認否

1 請求原因1項は認める。

2 請求原因2項中被告が原告らの異議に対して回答書を送達したが、右は裁決ではない。その余は認める。

3 請求原因3項はいずれも争う。

(一) 被告は定款並びに換地細則により、事業計画を従前従后の評価に基き厳格に仮換地計画を樹立したもので公正であり、裁量権を超え、又は濫用したことは全くない。

(二) 原告らの従前の土地は大部分標高二〇メートルの台地の西面の「のり」で急傾斜地であつて自然林がある他格別の利用はなされず、利用価値も少く客観的評価の低い位置地形であつて、被告の土地区画整理事業により最も受益する立場にあつた。

(三) 仮換地につき、現地換地を原則とするが、道路等の新設により、従前一筆の土地が道をはさんで二筆になることは換地技術上やむを得ないところであり、原告らの場合、ほぼ現地換地が実現され、又地積から考えても、宅地としての利用に支障を来すことは考えられない。

(四) 減歩率については、被告組合の平均が二六・八%なのに対し、原告ら所有地の平均が二七・二二%とやや減歩率が多くなつてはいるが、右は従前の土地と従后の土地の評価、地形、位置から算出されたもので公正である。

第三、証拠<省略>

(別紙)物件目録、図面<省略>

理由

第一、本案前の主張に対する判断

一、いずれも成立に争いのない甲一号証の一、二、同第二号証、原告本人尋問の結果によれば、本件仮換地指定処分が昭和四五年一月一九日になされ、翌一月二〇日原告らに送達されたこと、同年二月四日原告らは被告に対し本件仮換地指定処分に対する異議申立書を提出し、同年三月一八日被告より原告らに対し右異議は認めない旨の回答書が送達されたことが認められ、本訴が同年六月一六日提起されたことは当裁判所に顕著な事実である。

右事実によれば、原告らは昭和四五年一月二〇日には本件仮換地指定処分を知つたことになり、本訴は右処分のあつたことを知つた日から三ケ月以上を経過して提起されたものであることは明らかである。

二、成立に争いのない甲六号証および原告東風進の本人尋問の結果によると、被告組合が原告らに対して本件仮換地指定の通知をなした際、右通知に同封して、「仮換地指定について(通知)」と題する書面を送付したこと、右書面には、仮換地指定について意見、異議のある場合には昭和四五年一月二七日より同年二月七日迄に被告組合宛に申出るようにと記載されていること、原告らは、右書面に従つて、被告組合に対し、事件仮換地指定について異議申立書を提出したこと、他方被告組合は原告らに対し誤つた教示をなしたとは考えず右異議申立書を千葉県知事に送付する手続をとらなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、土地区画整理法一二七条の二によれば、土地区画整理組合の行つた処分に対しては都道府県知事に対して審査請求ができるのみで、処分庁である土地区画整理組合に対し異議申立をすることは認められていないのであるから、被告組合は前記書面により原告らに対し誤つて本件仮換地指定処分に対して異議申立ができる旨を教示し、原告は右教示に従つて被告組合に対し異議申立をしたものといわなければならない。前掲甲一号証の一、二によれば、仮換地指定通知自体には注意事項として仮換地指定処分に対して六〇日以内に県知事に対して審査請求ができる旨記載してあり、その限りでは正当な教示をなしているとみられるが、被告組合は、右通知書に同封した前記書面により異議のある場合には被告組合に申出るよう教示しているのであるから、少くとも被告組合は二つの教示をなすことによつて、不服申立に関して原告らの判断を誤らせ易い状態におとしいれたものというべきであり、右は行政不服審査法一八条三項の「審査請求をすることができる処分につき処分庁が誤つて異議申立を出来る旨を教示した場合」に該当するといわなければならない。従つて、同条三項により、被告組合は、原告らより提出された異議申立書を速かに審査庁である千葉県知事に送付すべき義務を負い、異議申立書が千葉県知事に送付された時は、同条四項によりはじめから千葉県知事に対して審査請求がなされたものと看做されることとなる。しかしながら本件の場合、被告組合は原告らの異議申立書を千葉県知事に送付していないのであるから、同条四項の適用はなく、従つて原告らが異議申立書を被告組合に対して提出した昭和四五年二月四日に、本件仮換地指定処分につき千葉県知事に対して審査請求がなされたと看做すことはできないが、被告組合は行政不服審査法一八条三項により原告らの異議申立書を審査庁である千葉県知事に送付する義務を負い、右送付によつて原告は何らの手続を要することなく、本件仮換地指定処分を知つた日から六〇日以内である昭和四五年二月四日千葉県知事に対して適法な審査請求をなしたものと看做されるのであるから、右異議申立は実質的には審査請求として取り扱れるべきものであり、被告組合の送付義務の不履行によつて行政不服審査法一八条四項の適用はないとしても、出訴期間との関係においては、行政事件訴訟法一四条四項「出訴期間は処分又は裁決につき審査請求をすることが出来る場合において審査請求があつたときは、審査請求をした者についてはこれに対する裁決があつたことを知つた日から起算される。」に準じて考え、本件のように行政不服審査法一八条三項による送付義務を負う処分庁が同義務不履行のため、同条四項による擬制を受けられないペンデイング(未決定)な状態にある場合には出訴期間は進行しないものと解するのが相当である。仮換地指定処分は審査請求前置主義をとつていない行政処分であり前示のように本件仮換地指定処分取消訴訟は、未だ出訴期間が進行していないから適法であり、被告組合の本案前の抗弁は採用できない。

第二、本案に対する判断

一、原告ら所有の別紙物件目録記載の各土地に対する本件仮換地指定処分による従前の地積及び仮換地後の地積の変動が別紙物件目録記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲七号証の一ないし三甲八号証の一ないし六、乙九号証によると右原告ら所有地の従前の地形は別紙図面記載AないしGのとおりであり、仮換地後の地形が別紙図面記載A’ないしG’のとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二、右認定によると本件仮換地による原告ら所有地の地形の変更、地積の減少等の変更は次のとおりである。

1  松戸市馬橋寺田二五九八の四(以下Aの土地という。)減歩率二四・〇一パーセント、略長方形の地形が正方形に近い長方形に変更。

2  右同所二五九八の五(以下Bの土地という。)減歩率二二・六一パーセント、略長方形の土地が街路をはさんで長方形と正方形の二筆に分割。

3  右同所二五九八の七(以下Cの土地という。)減歩率三四・一六パーセント平行四辺形の地形が長方形の角地に変更。

4  右同所二五九八の八(以下Dの土地という。)減歩率三一・三二パーセント突出部のある平行四辺形が長方形の角地に変更。

5  右同所二五七六(以下Eの土地という。)減歩率二九・五三パーセント、略正方形が角地を含むL字形と小長方形に分割。

6  松戸市馬橋上之台二、六〇〇(以下Fの土地という。)減歩率二九・五〇パーセント、突出部のある五角形が細長い長方形に変更。

7  右同所二七二一の一(以下Gの土地という。)減歩率二八・七五パーセント、細長い長方形が正方形に近い長方形に変更。

8  以上の原告ら所有地の本件仮換地による平均減歩率は二七・一七パーセントであり、Eの一部を除けばほぼ現地換地が実現されていると言える。

三、被告組合代表者安蒜進蔵の尋問の結果によると、本件仮換地による被告組合の平均減歩率が約二六・八パーセントであることが認められるから、原告ら所有地の減歩率は右平均よりも〇・三七パーセント多いことが認められる。

四、1 ところで、いずれも成立に争いのない甲九号証、乙一号証、乙三号証、証人野崎吉美の証言、被告組合代表者安蒜進蔵の尋問の結果によると、被告組合は本件仮換地の実施に当つては、組合定款、換地細則に基き、現地換地を原則としつつ、従前仮換地後の土地の評価、地形、位置等から、仮換地の位置、地積が決定され、特に減歩率については従前の土地と道路の関係を中心として決められ平均減歩率の一〇パーセント前後の高低差があること、換地計算の基礎となる土地の評価については、被告組合の総会で選出された評価員による区画整理施行区域内の基準点の評価をもとに理事会で決定されたものであることが認められ右認定に反する証拠はない。

2 そしていずれも弁論の全趣旨より真正に成立したものと認められる乙五ないし七号証、乙一二号証の一ないし三によれば原告らの所有地の換地計算に当つてもほぼ前項同様の評価額に基いて換地計算がなされていることが認められる。

五、いずれも成立に争いのない乙四号証、乙一一号証の一ないし一一、証人野崎吉美の証言により真正に成立したものと認められる乙一〇号証、証人野崎吉美の証言、前掲安蒜進蔵の尋問の結果によると、原告ら所有地の大部分は平地から一段と高くなつた残留台地の斜面部及び頂上部で、特にA、B、C、Dの四筆の土地は台地の斜面の「のり」の部分であり、又Gは台地の頂上部分でいずれも道路もなく一部自然林の残存する効用の低い土地であつたことが認められ、原告東風進本人尋問の結果中一部右認定に反する部分は措信できない。

六、以上の事実ならびに右事実認定の用に供した各証拠を総合して本件仮換地について検討すると、

1  本件仮換地においては原告所有地の場合、ほぼ現地換地が実現されており、Bの土地が二筆に分割されているが、道路をはさんで二筆に分割されたに過ぎないこと、A、B、Gの土地は従前は隣接していたのが仮換地によりB’とA’、G’は隣接しないことになつたが、道路をはさんで向いあつており一応一団としての換地となつていること、Eの土地は街区を異にして二筆に分けられ、従前ほぼ四角い土地がL字形と小さな長方形の飛地とに仮換地されているが、E’の隣地を保有地とする関係からそのように仮換地されたものと推測され、L字形部分は角地となり地積、地形等から宅地としての効用を害することはなく、小さな長方形部分はB’と隣接することになり、宅地としての効用が害されることはないこと等が認められ、この程度の地形、地積、配置の変更は換地技術上の問題として被告組合の裁量権の範囲内にあるものというべきである。

2  減歩率についていえば、原告所有地の平均減歩率は被告組合の平均減歩率よりも〇・三七パーセント多く、Cの土地が三四・一六パーセント、Dの土地が三一・三二パーセントとかなり大きいけれども、CDの土地は前記認定のとおり従前台地の「のり」部分の利用価値の小さい土地が仮換地後は角地として効用の大きな土地に換地されているのであるから、減歩率がある程度大きくなることは従前の土地と仮換地処分後の土地との価値の釣合をとることから、むしろ当然であつて、不当であるということはできない。

3  そして換地計算の基礎たる評価等について被告組合が原告らを特に不利益に扱つたり不公平に処理していないことは前記認定のとおりである。原告東風進の本人尋問の結果には、他に有利な取扱を受けた者があり、これと対比して不公平な換地だとの供述があるが、具体的に原告より有利に取扱いをうけた例の指摘等はないのであり、右供述からして不公平な換地処分であると認定することはできない。

結局被告組合が本件仮換地指定処分について裁量権を逸脱して違法、不当な仮換地指定をなしたと認めるに足りる証拠はない。

六、以上認定説示のとおり、原告らの本件仮換地指定処分の取消しを求める本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担の点につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺桂二 浅田潤一 林醇)

(別紙)物件目録、図面<省略>

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